Growing Concern about US-Russian Disarmament Treaties

米ロ軍縮条約への高まる懸念

Photo: The then Soviet inspectors and their American counterparts scrutinize Pershing II missiles in 1989. Credit: Wikimedia Commons【ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、『私たち共通の未来を守る』と題した軍縮アジェンダで、核軍縮に向けた対話の再活性化、真剣な協議、共通のビジョンへの回帰を訴えた。

来年、核不拡散条約(NPT)の190カ国以上の加盟国が、2020年再検討会議のためにニューヨークに集う。条約発効50年の節目となる年だ。専門家によれば、この会議を成功させるには大きな難題を乗り越えなくてはならないという。しかしながら、国際的な安全保障環境は悪化の一途をたどっている。

中距離核戦力(INF)全廃条約からの米国の撤退が発効する8月2日を前に、「憂慮する科学者同盟」(UCS)グローバル安全保障プログラムの共同ディレクターであるデイビッド・ライト氏は、「この歴史的な条約から撤退するのは近視眼的であり、米国とその同盟国の安全保障を長期的には損なうことになるだろう。」と語った。

ロナルド・レーガン大統領とミハイル・ゴルバチョフ書記長が1987年に署名したINF条約は、核あるいは通常弾頭を搭載できる短距離および中距離の地上発射ミサイルと、それらの発射装置を禁止している。

ライト氏はさらに、INF条約の破棄によって「米ロ間の緊張は高まり、安定を損なうような通常型ミサイルの配備競争へと道を開くだろう。」と警告した。

ドナルド・トランプ大統領が無分別に破棄しようとしている歴史的なINF条約によって、射程が500~5000キロまでの範囲の核弾頭及び通常弾頭を搭載した地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルが米ソ合計で2692発削減されたという事実を、ライト氏は強調した。

専門家らは、新型の地上発射型巡航ミサイルの実験という形でロシアが条約違反を犯したようであることは認めている。しかし、米国がポーランドとルーマニアに配備したミサイル防衛システムに関するロシア側の苦情にも一理あると主張している。

このシステムはミサイルを迎撃する目的のものだが、同時に、巡航ミサイルを発射する能力も備えている。そして、こうした発射装置を配備することは条約違反に当たる。米国はロシアとこの問題を協議することで、両国の懸念を解決し、INF条約を救おうとするつもりはないようだ。「ロシアが違反しているから米国の条約脱退は正当化される」という言い分は現状を全体としてみていない、と専門家らは論じている。

ワシントンのシンクタンク「軍備管理協会」のキングストン・ライフ軍縮・脅威削減政策局長は、「トランプ政権は2月に、INF条約なきあとにロシアが禁止されたミサイルや新型ミサイルを追加配備することを防止する実行可能な外交的・経済的・軍事的戦略を持たないまま、同条約から脱退するとの意図を『無謀にも発表してしまった』というのが実情です。そうした戦略もなく、配備する場所も考えずに中距離ミサイルの生産に走るのは意味をなしません。」と語った。

軍備管理協会の専門家らは、米国防総省が、INF条約で制限されている射程を超える3種の新型ミサイルシステム開発のために、2020会計年度に1億ドル近くを要求していると語った。民主党が多数を占める下院は、ミサイルの必要性に疑問を呈している。下院版の2020会計年度国防授権法案と国防歳出法案は、これらミサイルに関するペンタゴンの予算要求を退けている。

軍備管理協会のダリル・キンボール会長は、「INF条約がない状態で欧州における新たなミサイル競争を防ぐには、米国とNATOによるより真剣な軍備管理構想の策定がなされねばなりません。」と指摘したうえで、「例えばNATOは、ロシアがNATOの領域を攻撃可能なINFが禁止したシステムを配備しない限り、条約が禁止するミサイルやそれと同等の能力を持った核兵器を欧州に配備することはないとNATO全体として宣言することが考えられてます。」と語った。

UCSのライト氏は、「トランプ大統領の決定の背後には、米国の兵器体系をいかなる形であっても制約を加えるような合意に対する嫌悪があります。しかし米国は、この条約によって、自国のミサイル846基の廃棄に対して、ソ連のミサイルを1846基廃棄させるという成果を上げてきました。INF条約は、30年以上にわたってミサイル戦力の増強を防止してきた合意なのです。条約に依って問題の解決を図るほうが、条約を破棄するよりも米国の安全保障にとってプラスとなる方策です。」と語った。

INFから脱退したことで、新戦略兵器削減条約(新START)が米ロ間の唯一の二国間核軍備管理協定となった。「もしトランプ大統領が新STARTからも脱退するか、失効させる事態となれば、1972年以来初めて、両国が相互に制約のない状態で核戦力を運用することになります。」とライト氏は警告した。

「INF条約に続いて同様に新STARTも失効すれば、このおよそ半世紀で初めて、世界の二大核戦力に対する、法的拘束力があり検証可能な制限がなくなってしまうことになります。」とトマス・カントリーマン元国務次官補(国際安全保障・不拡散担当。現在は軍備管理協会理事会議長)は語った。

スイスの軍縮問題専門家オリビエ・タレネルト氏は、戦略核兵器の配備を制限する合意である新STARTは2021年2月5日に失効すると指摘する。両当事国は、条約を最大5年間延長することができる。

「しかしこれは、核拡散という、ますます広がる深い傷口に絆創膏を張って済ませようとするようなものです。本当に効果的な手当てをしようと思うならば、核軍備管理に関する全く新しい考え方が必要になります。」と、ETHチューリッヒでシンクタンク「安全保障研究センター」を率いるタレネルト氏は語った。

核軍備管理に関する新しい考え方が必要な理由として、タレネルト氏は次の2つを挙げた。

第一に、核軍備管理は将来的に、二国間よりも多国間のものでなければならない。その理由は、冷戦期と異なり、欧州は今日のグローバルな紛争においてもはや主要な役割をはたしていないからだ。代わってアジアの重要性が加速度的に増しており、核軍拡競争に関しても同様である。中国やインド、パキスタンは核戦力については米ロに大きく後れを取っているものの、着実に戦力の増強を進めており、もはや無視できない存在になっている。

「この意味で、中国を将来的に巻き込むとのトランプ政権の考えは的外れではない。米国政府の見方では、そうしたステップは不可避だ。なぜなら、中国は21世紀における大きな問題として、ロシアを上回りつつあるからだ。」

「第二に、将来の軍備管理は、核兵器だけに焦点を当てるわけにはいかない。他の技術が戦略的安定性に影響を及ぼすようになってきている。ミサイル防衛や長射程の通常型精密兵器、対潜防衛、移動型大陸間弾道ミサイルを探知・追跡するシステムなどがそれである。サイバー関連の問題や宇宙の役割が、全体として重要性を増しつつある。」とタレネルト氏は語った。(7.31.2019) INPS Japan/ IDN-InDepth News